SDGs 目標13 気候変動に具体的な対策を

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SDGs 目標13の趣旨は、「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」です。この目標は、全部で5つのターゲットで構成されています。

2018年12月2日から15日に開催された「COP24(Conference Of the Parties)」において、「パリ協定」の実施ルールに関する議論がなされ、その大部分において各国が合意しました。「パリ協定」は、2020年以降の気候変動問題への対応に関する国際的な枠組みで、2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議」で合意されました。

・世界共通の長期目標として2℃目標の設定。1.5℃に抑える努力を追求すること。

・主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新すること。

すべての国が共通かつ柔軟な情報で実施状況を報告し、レビューを受けること。

適応の長期目標の設定、各国の適用計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出と定期的更新。

イノベーションの重要性の位置づけ。

・5年ごとに世界全体としての実施状況を検討する仕組み(グローバル・ストックテイク)

先進国による資金の提供。これに加えて、途上国も自主的に資金を提供すること。

・二国間クレジット制度(JCM)も含めた市場メカニズムの活用

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html

気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)の第5次評価報告書(環境省2014年12月版)によると、世界の平均気温が1880年から2012年の期間に0.85(0.65~1.06)℃上昇していると報告されています。また、日本の年平均気温も1898年から2014年の間において、100年あたり約1.15℃の割合で上昇していて、長期的に上昇傾向であると報告されています。

私たちも最近では、「50年に一度の記録的な大雨」という言葉をよく耳にします。1時間の降水量が100mmを超えるようになり、河川の洪水や土砂崩れなどの災害にみまわれるリスクが高まっていることを必然的に認識するようになりました。

これらは、地球温暖化の影響によってもたらされる現象と考えられており、年々顕著かつ激化の傾向が強くなっています。地球温暖化は、20世紀半ば以降の人為起源強制力が寄与していた可能性が高いと評価されており、地球上に暮らすすべての人々が対策を負うべき共通の課題となっています。

地球温暖化は、主に二酸化炭素に代表される温室効果ガスが大気中に放出されて増加することにより引き起こされます。温室効果ガスは、地球から宇宙に向けて放出される熱放射(長波放射)を反射してしまうため、地球に熱を閉じ込めるように働きます。この影響により、長期にわたってじわじわと地球全体の気温が上昇しているのです。

日本政府は、2020年7月3日の内閣官房長官の記者会見で、「石炭火力を削減し、脱炭素社会実現に正面から取り組む必要がある。」との見解を述べました。また、経済産業省は二酸化炭素の排出量が多い古い石炭火力発電所について、発電量の段階的な削減に向け具体的な検討を始めるとともに、再生可能エネルギーの導入を加速させるため、送電線の利用ルール(売電)について見直すとの方針を表明しました。2050年までに地球全体で脱炭素社会を実現する取り組みが政府主導で進められているところです。

SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」では、実効性及び効果的な計画の策定具体的なアクションの推進が求められています。その中でも、私たちが特に注目している2つのターゲットについて、掘り下げてみたいと思います。

13.1 気候関連災害や自然災害に対する強靭性と適応能力を強化する

すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靭性(レジリエンス)及び適応能力を強化する。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

このターゲットは、気候変動により引き起こされる各種自然災害から人命・財産や生活を守るため、具体的な対策と適応能力を広く社会に浸透さて気象災害等による直接損失の低減を図ることを目指しています。これを実現するためには、気象予測技術を最大限に活用することが重要なカギとなります。

天気予報は、観測と予報によって成り立っています。日本の気象庁は、気象観測衛星ひまわり、地域自動観測システムAMeDASや雨雲レーダー観測などにより24時間365日絶え間なく観測を行っています。また、予報はスーパーコンピュータで数値予報モデルを運用し、未来の大気の状態を計算によって予測しており、年々予測精度の向上が図られています。

天気予報は、防災気象、生活気象、農業気象/漁業気象など、広範多岐にわたって必要とされる情報です。また、軍事における気象情報は、機密情報として扱われ、非常に重要な情報として位置付けられています。天気は、地球上で活動するすべての人類に対して影響を与えているものであり、日々の生活にも欠かすことのできない情報なのです。

大気の振る舞いを科学的根拠に基づいて高精度に予測し、防災気象、生活気象や農業気象/漁業気象などの各種情報に翻訳し、すべての住民に対して迅速かつ的確に提供すること。これは、気象予測技術に求められている永遠のテーマです。

デジタルトランスフォーメーションの加速によって、ビッグデータ、IoT、5GやAIなどのICT技術が社会に急速に普及してくることでしょう。今後は、ネットワーク上に存在する様々な情報を活用して新しい気象予測が実現する可能性があります。

さらに、気象予測が時空間的に超高解像化されていくことにより、社会や私たちの行動様式も大きく変化していくことになるかもしれません。エッジコンピューティングの普及により、天気予報は個人のニーズに特化した気象情報に翻訳されて提供される可能性を秘めています。

どこにいても、その場所で気象災害が起こる可能性、時間、避難の方法や場所などが即時・的確に情報提供されるヒューマンセットリックな仕組みを実現することができれば、気候関連災害や自然災害の回避、レジリエンスが向上し、適応能力が強化されることにつながっていきます。

気象予報士である筆者は、気象予報システムをもっと社会に身近なものとして普及させていくことが必要であるととらえています。近年のコンピュータの目覚ましい技術革新によって、農業法人など一般企業が自社のニーズに応じた独自の気象予報システムを構築・運用することは既に可能となっています。

気象ビジネス市場については、まだまだ手付かずのブルーオーシャンばかりです。未来では、防災とビジネスを両立する気象予報システムが求められることでしょう。また、気象予測データと人工知能(AI)のコラボレーションが、無限のチャンスと可能性を提供してくれることでしょう。

13.3 気候変動対策に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する

気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改する。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

このターゲットは、13.1のターゲットを達成するために必要な人材の確保と機能的な制度の整備・改善を目指しています。これらを達成するために、私たちは以下の2つのアプローチがあると考えています。

  1. 防災気象情報提供体制の強化
  2. 防災気象に係る地方自治体支援

防災気象情報提供体制の強化

総務省の平成30年情報通信白書の調べによると、2017年におけるスマートフォンの個人保有率は60.9%で年々増加しています。今や時間や場所を問わず、いつでもインターネットに接続して必要な情報にアクセスすることが可能となっています。通信キャリア大手が運営するエリアメールサービスや緊急速報メールによって、私たちは気象庁が配信する緊急地震速報、津波警報、気象等に関する特別警報、災害・避難情報(Jアラート)をリアルタイムで受信することができるようになっています。

そのような時代であっても、毎年、気象災害等によって尊い命が失われており、防災に関する行政のあり方について検討すべき課題がいくつも残されているのが現状です。

内閣府が定めた「避難勧告等に関するガイドライン①(避難行動・情報伝達編)」によると、避難勧告等の発令権限が各市町村長に付与されており、各地方自治体で定める地域防災計画に従って実施されることになっています。また、市町村長は、災害発生のおそれの高まりの程度に応じて、避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示(緊急)を使い分けて発令すべきであると定められています。

しかしながら、居住者に対する強制力はなく、居住者が避難勧告等に従わなかった場合でも罰則規定はありません。居住者に対しては「自らの命は自らが守る」という意識を持ち、避難勧告等が発令された場合はもちろんのこと、発令される前であっても行政等が出す情報に十分に留意し、災害が発生する前に自らの判断で自発的に避難することが期待されています。

ここでは、大きく分けて2種類の防災情報が存在しています。1つ目は、避難勧告等の発令を判断するために必要な情報です。市町村長は、気象庁から発表される注意報、警報や特別警報に基づき、避難勧告等の段階について決心します。しかしながら、時々刻々と変化する気象情報から災害発生のおそれの高まりを昼夜問わず判断しなければならず、過去には防災気象情報の伝達が錯そうしてしまい、避難指示の判断を誤り、人命被害を伴う気象災害の発生に至ったケースがありました。

もう一つは、自主的避難を判断するための情報です。居住者は、インターネット、テレビやラジオなどにより気象情報を入手することはできますが、自ら避難しなければならない状況について判断するのはとても難しいことでしょう。このことから、市町村長や地域居住者の決心や判断に対して、専門的知見から迅速・的確に情報を提供しアドバイスしてくれる存在が必要であることが理解できます。

1993年(平成5年)の気象業務法の改正により、気象庁以外の者による一般向け予報業務が許可され、民間気象予報業務が開始されることになりました。次いで翌年の1994年(平成6年)8月には、第1回目の気象予報士の国家試験が実施されました。

2017年時点では、9,800人あまりが気象予報士として登録されていますが、実際の気象予報業務に従事している気象予報士はわずか20%程度であり、気象予報士の資格制度の必要性を問われる事態になっています。気象予報士のほとんどは実際の予報業務(現業)経験がない者が多く、ペーパードライバーのようなものです。一人前になるためには、少なくとも2年から3年ぐらいは、高練度者と一緒に現業経験を積みながら気象予報のスキルを磨く時間が必要と言われており、これら要因が気象予報士の就職を難しくしているといっても過言ではありません。

気象予報士は国家資格であるにもかかわらず、就職先が少ないことが原因で受験者数が年々減少しています。気象予報士を必要とする業種は、現時点では天気キャスターか民間気象会社ぐらいしかありません。2020年(令和2年)6月時点における予報業務の許可事業者数は全国で81者しかなく、気象予報士にとって非常に狭き門であることが理解できます。

2017年(平成29年)3月に気象庁が中心となって設立した「気象ビジネスコンソーシアム(WXBC)」は、産官学が一体となって産業界における気象データ利用を推進し、気象データを高度に活用した産業活動の創出・活性化を目的とした活動を展開しています。

今後、気象予報士は従来の予報業務のみならず、気象データを活用した新ビジネスを創出できるプロフェッショナル人材として活動するべきと筆者は考えています。そして、このような気象予報士の活躍の場(=就職先)を創出することこそ、地域における防災気象情報の提供体制の強化につながっていくとものと確信しています。

防災気象に係る地方自治体支援

気象庁は、2018年度(平成30年度)の気象庁関係予算決定概要(報道発表資料)において、「地域防災力の強化」のための予算として5.5千万円計上したことを明らかにしました。

3.地域防災力の強化

(1) 市町村等の防災気象情報の「読み解き」(理解・活用)を支援するため、平時では地方公共団体の防災担当者向けの実践的な研修・訓練等を実施し、災害後には市町村と共同による災害時の対応の「振り返り」を実施する。

(2) 災害時に都道府県等に職員を派遣し、現場のニーズを踏まえた的確な気象解説により、防災対応の判断を支援。

https://www.jma.go.jp/jma/press/1712/22a/30kettei.pdf

これらは、官(気象庁)と地方自治体の間で実施されるものです。地方気象台の予報官等の専門官と市町村の防災担当者が共同で防災活動の研修やアフターレビューを行い、緊急時の対応について互いの課題を共有し、効果的改善を図っている点については、サービスを受ける側からみても高く評価することができる取り組みといえるでしょう。

しかしながら、全国1,724もある市町村のすべてに対して地方気象台の職員が対応することは現実的なのでしょうか。こと有事の場合に「気象防災対応支援チーム(仮称)」が効果的に機能するかについては、気象庁全体の職員数や地方気象台の職員数を考えると、いささか疑問が残ります。

特定の限られた狭い地域において気象災害の危険度が高まっているようなケースでは対応可能なのかもしれませんが、猛烈な台風が日本列島を縦断するようなケースでは、すべての市町村に地方気象台の職員を派遣することは現実的に不可能です。

官ができなくても、民間企業ならばできることがあるはずです。例えば、注意報・警報や特別警報、地域特性について熟知した現業経験豊富な気象予報士であれば、地方気象台の予報官等専門官に代わって役割り果たすことも十分可能ではないでしょうか。

民間力をもっと積極的に活用することで、地方自治体の首長や防災担当者の「読み解き」を支援して負担を軽減することにより、地域の防災活動をより実効的なものにすることが可能となることでしょう。

現行気象業務法など法律や制度機能の改善を含めて、気象予報士がもっと責任ある立場で社会貢献できるように積極的に活用していただきたいものです。

編集後記

SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動を引き起こす温室効果ガスの増加に歯止めをかけ、地球環境を深刻なダメージから救済して、人間と地球上のあらゆる生物の生存圏を守るために重要なアクションアイテムが示されています。

基本的にはパリ協定やCOP24の枠組みによる世界全体の取り組みとして、国連や政府が中心となって環境改善のための実効的な政策を策定して実践していく活動が主体となります。なぜならば、持続可能な社会の実現のためには、私たちの生存圏である地球の環境を未来へ安定的に存続させる必要があるからなのです。そういった意味から、SDGsの目標13はSDGsのすべての目標に対するベースラインまたは礎石と表現することができるのかもしれません。

一方、温暖化の影響によってもたらされる気象災害や自然災害の発生は、年々増加と激化の一途をたどっている状況です。尊い命が犠牲になった気象災害のニュースにふれるたびに、気象予報の役割や制度機能のあり方について、「もっと何かできることがあるんじゃないだろうか」と考えさせられます。

2030年の未来では、社会に存在するすべてのものがネットワークにコネクトされ、気象データがあらゆるデータと融合して、社会の隅々までヒューマンセントリックに提供利用されていることでしょう。

例えばMaaSの世界では、目的地に至る交通手段のすべてから、気象予測を加味した最適な組み合わせをAIが提案してくれるようになるかもしれません。また、カーナビがそれぞれの目的地の天気を加味した推奨ルートを提案してくれるようになるかもしれません。そのような世界では、どこにいても現在位置における危険因子と危険回避の方法が提案され、危険の未然回避や安全避難が可能になっているのかもしれません。

このような未来の姿は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」ターゲット11.2「持続可能な輸送システムへのアクセス提供」やターゲット11.5「災害による死者数や被害者数を減らす」と強く結びついて具体化されていくことになります。

みなさん、私たちと一緒に安全で安心な暮らしの創造とSDGsの達成を目指していきましょう。

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