SDGs 目標2 飢餓をゼロに

SDGs 目標2 ロゴ

SDGs目標2の趣旨は、「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」です。この目標は、全部で8つのターゲットで構成されています。

「飢餓」という言葉を聞くと、飽食の時代の日本においては無縁のように感じますが、現代の日本は、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7つの先進国で構成されるG7の中において、米国に次ぐ相対的貧困率の高い国であると言われています。

OECD(経済協力開発機構)による2017年4月の経済報告書によると、日本の生産性上昇率に対する実質賃金上昇率の剥離が大きいことが指摘されており、低賃金の非正規労働者の割合が増加していることを裏付けています。日本の最低賃金は、OECD諸国の中で最も低い水準にあり、平均賃金との格差が年々拡大しているのが現状です。

相対的貧困」とは、「世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない人々」と定義されており、2019年における日本の平均年収を441万円と仮定すると、年収が220万円に満たない所得世帯が該当します。このような所得世帯においては、衣服、住居費、光熱費、通信費や保険料などを捻出するために食費にかかわる経費を削減する傾向があるといわれています。そのため、現代日本に生活する子供たちの栄養状態や健康維持に対する食糧不安が顕在化しており、新たな社会問題としてクローズアップされています。

学校などは、学校給食が唯一のバランスの摂れた食事となる子供たちが存在することを重く受け止め、栄養価の高いバランス取れた学校給食の提供に努めているほか、地域住民や自治体が「こども食堂」を運営して、無料または低価格で子供たちに食事を提供して、子供たちの健康を支えてくれています。

以上のように、日本は表面的には裕福に見える一方で、内面は貧困による飢餓の危機が身近に存在していることを理解する必要があり、雇用環境・働き方改革、労働収入やその他の収入増加による所得改善など、早急に改善策を講じなければならない切実な問題を抱えているのです。

SDGsの目標2は、これらの問題解決に取り組むための具体的な方法が提示されています。その中でも、私たちが特に注目している2つのターゲットについて、掘り下げてみたいと思います。

「2.3 小規模食糧生産者の農業生産性と所得を倍増させる」

2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食糧生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

このターゲットは、主に女性や第1次産業に従事する方々の所得に着目し、あらゆるリソースと機会を平等に享受できる社会への転換によって、生産性と所得の倍増させることを目指しています。これらを達成するために、私たちは以下の3つのアプローチがあると考えています。

  1. 生産方法の見直し
  2. 生産活動のブランド化
  3. 独自の拡販ルートの開拓

生産方法の見直し

農業を例に考察してみましょう。農家さんは、概ね年間通じて農作物を生産しています。作物の収穫時期や旬に応じて様々な作業があり、農業は複雑かつ重労働を強いられる職業です。また、作物の収穫量は年々変化する気候変化や天候に左右されることが多く、年によって作物の価格が大きく変動することも少なくはありません。

豊作の年では作物の価格は下がり、不作の年では作物の価格は上昇します。また、出荷量の調整により作物が廃棄される場合もあります。丹精込めて生産した作物が、台風被害で収穫できなかったり、生産過多で値崩れしたりと、農家さんは常に様々なリスクにさらされており、その収入はとても不安定であることが考えられます。

露地栽培法で農作物を生産する場合は、作物の栽培と収穫時期が限られるため、ある時期に出荷量が集中しやすくなります。当然ながら、市場への供給量が多くなれば作物の価格は下がります。そのため、作物の出荷量を調節して市場供給量を一定に保つことが実現できれば、作物の価格が安定化することにつながります。

現在は温室などのハウス栽培技術の向上によって、消費者は一年を通じてたくさん種類の野菜を入手することができます。つまり、温室栽培などの技術を活用して気候や天候などの外的要因のリスクを回避しながら、年間通じて安定的に作物を生産・出荷できる仕組みを構築することにより、作物を適正価格に安定させることができるため、おのずと農家さんの収入も安定化するはずです。

これは、スマート農業に代表される新しい農業への取り組みを広く普及させる活動につながっています。スマート農業においては、生産活動が機械化されることによって、これまでの重労働から解放されることが多くなるため、女性にもやさしい労働環境が実現できます。また近年では、スマート農業への転換を期に、周辺農家さんが協同で農業法人を立ち上げるケースも増えてきています。

生産活動のブランド化

2.3のターゲットには、小規模生産者に対する「高付加価値化への確実かつ平等なアクセスの確保」が記されています。私たち一般の消費者は、生産者の努力と丹精込めた生産活動によって、安全・安心で品質の高い商品を入手することができています。

それでは、私たち一般の消費者が生産者にできることは何でしょうか。それは、商品をたくさん購入することです。つまり、私たち消費者が商品を購入することによって生産者の生活を支えることができるのです。

生産者の立場で考えてみると、消費者の購買意欲を上げるためには商品の付加価値がとても重要になってきます。例えば、地域名などが付けられ販売される農産物や海産物などは生産地域を付加価値としてブランド化したものですが、これでは個々の生産者の生産物に対する付加価値やブランディングの差別化が不十分です。

それぞれの生産者が、「めずらしいもの」「高級なもの」「こだわりの生産方法」などをベースとして、生産者のオリジナリティあふれる付加価値やブランディングを提供したり、生産者を見える化することによって、消費者がもつ多様な価値感に応じて購買意欲を掻き立てることができるのではないでしょうか。

小規模生産者一人一人をブランド化することによって、生産品に新しい価値観を上乗せし、これまでとは異なる消費者行動やブームを巻き起こすことによって、生産者の所得倍増が実現できるのではないでしょうか。

独自の流通・拡販ルートの開拓

今日の日本においては、生産者の大半が法律に基づく農業協同組合や漁業協同組合の組合員に所属して、組合に生産物を買い取ってもらったり、保険などの共済サービスの提供を受けたりすることが可能となっています。

これら組合が提供するサービスのほとんどは、生産者にとってプラスの効果をもたらしますが、実際のところはマイナスの側面があるのも事実です。それは、組合に所属する生産者の大半が、独自の流通・販売ルートを持っていないことによって、組合の定める規格に合うもの生産物以外は買い取ってもらえないため、独自の拡販ルートを持たない生産者は、組合による規格外の生産物を収入に変換することができず、自家で消費できないものは廃棄せざるを得ないのです。

小規模生産者一人一人のブランド化によって所得を倍増させるには、規格品しか買い取ってくれない組合の仕組みのみを活用して達成することは困難でしょう。特に小規模生産者は、組合のほかに独自の流通・販売ルートを確保しておくことによって、生産物を余すことなく収入に変換することができるようになるため、収入を安定化させることが可能となるでしょう。

最近では、ネット販売で野菜や生鮮食料品などを購入する消費者が増えています。小規模生産者が、生産物に付加価値を付けて、自由に価格を設定して販売できる仕組みを保有することは、これからの社会構造の変化に柔軟に対応する上でとても重要なアクションといえるでしょう。

通販サイトの運営会社に販売委託することも選択肢のひとつです。また、それらICT技術を提供する事業者も地域に必要となるため、あらたな雇用機会の創出にもつながっていくことが想定されます。地産地消の原則から見れば、小規模生産者同士のコミュニティを活用して、露店販売を行ったり、道の駅を活用することも、独自の流通・拡販ルートの確保として有効な手段となることでしょう。

2.4 持続可能な食糧生産システムを確保し、強靭な農業を実践する

2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食糧生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

このターゲットは、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に強く、生産性の高い持続可能な農業や漁業の仕組みを構築することを目指しています。これらを達成するためには、これらを達成するために、私たちは以下の3つのアプローチがあると考えています。

  1. 後継者不足の解消
  2. 高齢化問題の解消
  3. 農業などに対するリスクへの対応

後継者不足の解決

農業、漁業及び林業の後継者不足は、日本の食料自給率を支えるうえで深刻な問題となっています。次世代を担う若者の心理として、これらの業種には「きつい、稼げない、結婚できない、汚い、かっこわるい」といったイメージが定着していることが後継者不足にもつながっているようです。

また、若い子育て世代は、安定的な収入を求めて都心周辺に生活の基盤を移しているため、専業農家のみならず兼業農家でさえも減少しており、廃業する生産者が年々増加しています。

農業、漁業及び林業を持続可能な産業にしていくためには、それぞれの業種における各種技術を未来に継承していくことが重要であり、若者が抱く「きつい、稼げない、結婚できない、汚い、かっこわるい」といったイメージを一掃して、強力に改革推進していかなければなりません。

農業、漁業及び林業を魅力のある業種に転換させ、後継者をたくさん育成して優れた技術を未来に継承するため、ICT技術を存分に活用してデジタル空間に情報を発信していくことが重要です。

高齢者問題の解消

後継者不足の問題や子育て世代の生活圏が都心部へ移住したことによって地域の高齢化が加速し、農業、漁業及び林業の業種における就労者の平均年齢は60歳を超えていると言われています。一般的なサラリーマンとして定年退職を迎えた人と同じ年代の方々が、これらの業種における働き手の中心となっています。

高齢化により、力仕事が徐々に難しくなることで生産性が低下したり、危険な高所作業などにより思わぬケガを負ってしまい働けなくなるなど、その現状は持続可能な社会環境とは程遠い状況に置かれています。

高齢化の主な要因には、「少子化・婚姻率の低下」と「子育て世代の都心部への流出」が挙げられます。これによって、地域の過疎化や限界集落化を引き起こされ、高齢者のみが居住する地域が各地に点在するようになりました。このような地域では、公共交通機関の維持すら困難になり、鉄道や路線バスの路線廃止により、買い物や医療機関へのアクセスに不自由が生じています。

子育て世代が都心部へ移住する理由は、地域に雇用機会がないこと、生活に必要なインフラや学校、医療が十分でないことなどが挙げられています。

COVID-19の影響によって日本人の働き方に対する考え方が強制的に変化させられました。そして、働き方改革法案により働き方に変化を求められてきた日本人サラリーマンの多くが、一気にテレワークに移行しました。この影響によって、私たち現代人は、場所や時間にとらわれない働き方が可能であることを体験的に知るところとなりました。

通勤にかかる時間や満員電車のストレスから解放され、余った時間を自分や家族のために使うことができるようになったため、今後もテレワークを続けていきたいといった意見も聞かれるようになりました。

現代はパソコンとネットワークさえあれば、どこでも働くことが可能です。農村や漁村に居住しながら、会社の仕事を行うことが可能なのです。これまで会社の近くに置いていた生活拠点の考え方が大きく変化し、地方を含めた選択肢がたくさん増えたことによって、都心部に流出した子育て世代が故郷に戻り定住するようになれば、地域全体の消費活動が活性化され、地方自治体の税収増加による公共サービスやインフラ整備の向上も期待することができます。この考え方は、政府が推進する首都圏一極集中の解消地方創生の重要な立役者であり、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に通じています。

農業などに対するリスクへの対応

農業、漁業や林業など第1次産業は、自然からもたらされる恩恵により成り立っていると言ってもいいでしょう。しかしながら、自然は富だけではなく様々な災害による被害をもたらすこともあり、古くから人間は自然と共存するうえで、天災に神の存在を映して甘んじて受け入れてきました。

自然災害による2018年の経済損失額は、世界で2,250億ドル(約25兆円)に達したと推計されており、年々災害による経済損失額が増加の傾向を示していると言われています。日本は有数の火山大国であり、これまで甚大な地震災害に繰り返し見舞われてきました。また、日本付近は夏から秋にかけて台風の通り道となり、温暖化の影響もあいまって、甚大な風水害をもたらされる要因となっています。

これら災害の影響を少しでも軽減するための対策が可及的速やかに必要であり、気象、海象、地震に関する情報の有効な活用方法の開発と提供を可能としていかなければなりません。この考え方は、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」に通じており、その中のターゲット13.1 「気候関連災害や自然災害に対する強靭性と適応能力を強化する」が目指すべき方向性を示しています。

天災のほかにも、土壌汚染やウィルス・細菌の蔓延による社会活動や生産活動の停滞は、生産者の収入に直接悪影響をもたらします。あらゆるリスクから生産活動や社会活動を守るためにも、スマート農業の促進ICT技術の導入による生産性向上や市場へのアクセス維持情報技術によるリスク回避を早期に実現させ、持続可能な食糧生産システムの確保と強靭(レジリエント)な生産活動を実現させなければなりません。

編集後記

SDGsの目標2「飢餓をゼロにする」は、一見すると発展途上国に対する課題解決のように考えがちですが、実は日本の現代社会が抱えている根本的な問題と解決すべき様々な課題があることが理解できました。特に、未来を担う子供たち健康を守るため、飢餓に対する対策と世帯収入の増強を確実に改善していかなければならないことを痛感しました。

政府や自治体のみならず、地域で活動する企業や住民のすべてが、一貫性と調和のとれた理想の未来社会の実現のために一丸となって問題解決に取り組んでいかなければ、SDGsが目指す未来に到達することはできないのです。

SDGsが目指す「持続可能な開発目標」とは、未来志向の経済活動によって持続的に収益を獲得するための思想・思考や推進活動を具体的に実践していくための行動指針と言い換えることができます。すぐに成果がでるものばかりではないでしょう。しかしながら、SDGsは私たちの生活に密接に関係しており、日常生活の中の気づきと行動の一つ一つがSDGsの目標達成のために重要なアクションであり、それを積み上げていくことで、やがて目に見える成果となって具現化されてくることでしょう。

SDGsを意識したライスワークの先に、きっと、あなたらしい理想の未来が見えてくることでしょう。みなさん、私たちと一緒にSDGsの達成を目指していきましょう。

SDGsと地方創生に関するお問い合わせについて

本サイトの掲載内容に関するお問い合わせは、こちらから承ります。
どんな内容でも構いませんので、気兼ねなくご相談ください。
システムエンジニアリングの経験を持つスタッフが、ボランティアでご相談に応じさせていただきます。