SDGs 目標8 働きがいも 経済成長も

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SDGs目標8の趣旨は、「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」です。この目標は全部で12個のターゲットで構成されています。

総務省統計局によると、2019年における日本の完全失業率は2.4%と公表されており、世界の失業率と比べた場合に、今日の日本の雇用は経済的視点で見ると完全雇用状態ということができます。ただし、完全失業者数でみると、約190万人の人々が働く意欲があるのに就職できていない状況で、依然として労働力が余っている状況です。

政府が2018年6月29日に成立させた「働き方改革法案」は、2019年4月1日に改正法が施行され、主な改正のポイントは、時間外労働の上限規制に対する罰則規定の追加、年次有給休暇の確実な取得正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止が規定された点です。

時間外労働の上限規制に対する罰則規定が法人に課せられたために、企業は社員の残業時間を厳密に管理するようになり、基本給の少なさを補填するために生活残業が習慣化していた日本のサラリーマン達の収入は減少しました。しかしながら、今日の日本企業における社員の評価の中心は、成果よりもプロセスを重視する傾向が根強いため、「たくさん残業している社員は頑張っている」「残業していない社員はさぼっている」といった風潮が残っているため、これを大義名分として生活残業するサラリーマンがあとを絶ちません。時間外労働の上限規制については、残業時間を減らすことが本当の目的ではありません。社員一人一人の労働生産性を向上させ、収益を拡大することにより、社員の給与所得を増加させることが目的です。

日本企業の年次休暇の取得率については、世界標準から見て最低水準です。年次休暇は、労働基準法第39条で定められた労働者の権利の行使にあたります。しかしながら、年次休暇の取得の理由を上司から求められたりするなど、自由に取得しにくい職場環境が存在しています。

正規・非正規雇用労働者の給与所得についても、「同一労働、同一賃金」が達成されていません。同じ量と質の仕事をして賃金に差が出るのは常識的に考えるとおかしいことですが、日本では普通に慣行され続けています。また、正規・非正規雇用労働者の働き方についても差が大きく、正規社員には普通に認められているリモートワークが、非正規社員には認めていない企業が非常に多いなどの実態が、COVID-19の蔓延で顕在化しました。

以上のように、日本は完全雇用状態であるにも関わらず、日本人の労働環境の実態は必ずしも健全な状態ではないとこが理解できるでしょう。SDGsの目標8は、これらの問題を解決するため具体策を提示しています。その中でも、私たちが特に注目している2つのターゲットについて、掘り下げてみたいと思います。

8.1 一人当たりの経済成長率を持続させる

各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

このターゲットは、主に一人ひとりの経済的な豊かさを追求し、経済格差によって生じる貧困や生活レベルの差をなくし、すべての人々が健全な労働環境の中で平等に対価を得ることが可能な社会づくりを目指しています。これらを達成するために、私たちは以下の2つのアプローチあると考えています。

  1. 最低賃金格差の改善
  2. 場所にとらわれない働き方

最低賃金格差の改善

厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧によると、令和元年度の全国加重平均額は901円とされています。最も高いのは東京都の1,013円で、神奈川県が1,011円で続いています。一方、九州から沖縄県にかけては790円であり、実に200円以上の差が生じています。しかしながら、これら賃金の差は各地域の物価の差によって相殺される部分があるため、最低賃金によって一概に貧困の度合いを決めれるものではないことも事実です。

最低賃金は、最低賃金法(昭和34年4月15日法律第137号)により定められ、労働者と使用者の間の労働契約において、最低賃金に達しない労働契約は無効とされ、最低賃金の額が保証されるようになっています。この仕組みにより、労働者がワーキングプアにならないように守られています。

しかしながら、地方の企業は都心の企業と比べた場合、少子高齢化などにより生じる人材不足の問題により、必ずしも収益性が高いわけではありません。事業を拡大して収益性を高めるためには、人材の確保が必須となりますが、最低賃金が引き上げられると、人件費が膨れ上がり、経営にダメージを与える可能性もあるため、これまでの日本企業は、賃上げに対して慎重な立場をとってきました。

また、地域による最低賃金の差により、働き世代である若者の都心部へ流出が止まらない状況が続いており、地方の企業は、ますます人材確保が難しくなっており、人手不足による廃業・倒産に追い込まれるケースも相次いでいます。

最低賃金を上げることができれば、労働者の所得収入を増加させることが可能であることは容易に想像できますが、労働者の視点から見れば、会社が決定することであって受け身でしかありません。企業と労働者が共倒れする構造を解消しなければ、真に一人当たりの経済成長率を持続させることはできないのです。

企業は、単に労働者の賃上げに努力するだけではなく、雇用条件の多様性を確保して、労働者の働き方に変化をもたらさなければなりません。政府は、「働き方改革実行計画(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)」により、副業・兼業の普及促進を図っています。これの基づき、厚生労働省が平成30年1月に「モデル就業規則」を改訂し、労働者の遵守事項として定められている「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という文章を削除しました。

これにより、副業が解禁された企業も現れることになりましたが、副業を認めていない、または禁止している企業もまだまだたくさん存在しています。しかしながら、労働者に副業や兼業の機会が与えられることにより、月5万円でも10万円でも所得が増加すれば一人当たりの経済成長率を向上させることができるのではないでしょうか。

「タニタ食堂」でおなじみの株式会社タニタでは、一部の社員をフリーランスに転換させて、フリーランス契約を結ぶといった雇用改革が実践されています。一見、社員の人員整理とも見える改革ですが、タニタの仕事をしながら個人事業主に転換できるため安心感があること、個人事業主として、仕事に対する裁量と責任感が生まれ、やりがいが感じられること、他社とのフリーランス契約を通じて、多様なビジネスシーンに携わることができ、自己の成長が感じられることと、タニタの雇用改革は、フリーランスに転換した元社員から高い評価を得ているようです。

フリーランスですから、働く時間、仕事の内容や量を自分の裁量で調整することも可能ですから、自分や家族などと一緒に過ごす時間を作ることもできるでしょう。

このような雇用改革の推進によるワーク・ライフ・バランスの取れた働き方を通じて、労働者の仕事に対する思いや個人の成長を刺激することこそが、「働きがい」と「一人当たりの経済成長率」の持続可能性を高めるために求められる取り組みなのです。

場所にとらわれない働き方

COVID-19により、各企業はこれまで介護や養育などの一定の条件において認めていた社員のリモートワークを、全社員に開放することになりました。リモートワークの実践により、これまでのハンコ文化や紙文化などの在り方が見直され、社内の作業や活動が高度に最適化されてきました。働き方についても「ニューノーマル」が急速に浸透しつつあります。

今日においては、ネットワークとパソコンやタブレットがあれば、世界中の人々とつながることが可能です。これまで、満員電車に揺られて出勤し行っていた仕事は、リモートワークによりオンライン上で進められています。極端な話をすれば、ビルやテナントを必要とない業種も多数あります。リモートワークにより働く場所が自由になることは、とても重要な意味を持ちます。

働き世代や子育て世代が仕事や医療、教育を求めて都心部に集中し続けており、都心部は飽和状態になっています。一方、地方では働き世代や子育て世代の若者の人口が減少し続けており、過疎化や限界集落の問題が顕在化しているのも現状です。戦後復興から高度経済成長にかけてつくられてきた、定時に出社して働くといった日本古式の働き方により、都心部へ仕事と人口が集中したことが地方人口の減少の大きな原因なのです。

新しい未来を迎えるにあたっては、都心部への人の流れを地方に逆流させて地域人口の分布を均一化させることがとても重要です。これを可能にするのがリモートワークなのです。ネットワークとパソコンがあれば、オンライン上で社内会議をすることも資料を共有することも可能ですし、契約事務なども電子決済によってオンライン上で実施することが既に可能となっています。つまり、出社しなければできない仕事自体が極端に少なくなってきているため、通勤する必要性がなくなってきているため、会社の近くに居住する意味もなく薄れてきます。

リモートワークによって、自分の好きな場所や生まれ故郷に居住しながら、これまでと同じように会社の仕事に就くことが可能になっています。これにより、地方への定住化が促進されることになれば、人口増加や消費活動による地方自治体の税収の増加が見込めるほか、働き世代や子育て世代の定住化により、核家族化問題や介護離職などの諸問題の解決にも良い影響が期待できます。

さらには、新しい住民の定住によって、地方や集落の空き家問題の解決にも貢献することが期待され、地方に眠るリソースの有効活用も地方創生には欠かせないアイテムです。また、人口増加により、交通インフラ、高い医療や社会福祉などのサービスの品質が改善され、新たな雇用機会を創出することが可能となります。

リモートワークを通じて、未来では「場所にとらわれない働き方」が常識となっていることでしょう。大自然に囲まれながら、仕事と生活のバランスを保つことも可能な時代になりつつあります。仕事が終わったら、そのままサーフィンに出かけたり、釣りに出かけたりできる生活も夢ではありません。

また、リモートワークにより世界中のビジネスパーソンとつながることによって、日本のビジネスの新グローバル化が加速するのではないでしょうか。企業も個人も場所にとらわれない働き方を追及していく姿勢が、未来志向として大切なことなのです。

8.9 持続可能な観光業を促進する

2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

このターゲットは、地方に存在するあらゆるリソースを活用して観光業を活性化させるために必要な活動を、自治体と住民が一体となって共同で推進していくことを目指しています。これを達成するためには、以下の4つのアプローチがあると考えています。

  1. リピート率の向上
  2. オールシーズン営業
  3. 観光リソースの見える化
  4. 宿泊施設の利用率改善

リピート率の向上

今日における日本の観光業は、外国人のインバウンド需要によって支えれていたのが現状であり、国内需要が少ない状況です。2020東京オリンピックによる特需も期待され、企業は新しい宿泊施設を整備するなどしてきましたが、COVID-19の世界的蔓延により、インバウンド需要がほぼゼロまで低下した影響により、老舗ですら廃業してしまうような状況となってしましました。

今後は、苦肉にもCOVID-19によってもたらされた新しい生活様式が世界中で定着する中で、海外旅行する人口が減少することが予想されるため、インバウンド需要による経済効果は期待できない状況です。持続可能な観光業を促進するためには、国内需要の拡大を図ることがとても重要なのです。

観光客のリピート率を向上させるためのヒントとしては、「非日常」「体験型」があげられます。非日常と聞くと何かワクワクした感覚を覚える人もいることでしょう。また、これまで経験しなかったことを実際に体験することにより、知識、教養や経験などを通じてこころの豊さを得ることができます。

リピートのきっかけには、「癖になるような出来事や体験」「ある一定期間を通じた体験」が考えられます。好きなこと、好きな場所や好きな食べ物など自分の好きな体験に対しては自然にリピートしたくなるものです。また、農業体験漁業体験など、何かを自分たちで作ったり育てたりして食べる体験などは、一定の期間内で複数回通うようなリピートもあるでしょう。

またそこに行きたいと思わせるいろいろな仕掛けや工夫を既存の観光業に取り入れて、減ってしまった国内観光の需要を増加させることが持続可能な観光業の促進に必要であり、地方自治体と事業者が一体となって同じ未来ビジョンに向かって進んでいくことが重要です。

オールシーズン営業

観光業の安定的な雇用を実現するためには、オールシーズンで観光客を地元に誘致できるかが重要なポイントです。海水浴シーズンやスキーシーズンは観光客が多いが、シーズンオフは閑古鳥が鳴いているような観光地があちこちに見受けられます。

このような観光業は、気候変動などの影響を強く受けることがしばしばあり、それらリスクによる経営へのダメージを受けることがあります。例えば、冷夏による海水浴客の減少や暖冬の雪不足によるスキーやスノーボード客の減少などがあげられます。

江の島や鎌倉に代表されるオールシーズンで観光客が絶えることのない観光地においては、地域全体の一体感を感じることができます。それは、観光地に所在するすべてのリソースが上手に無駄なく活用されているからではないでしょうか。また、そのような観光地では、史跡・文化財、名産品・特産品やアミューズメント施設などがバランスよく含まれており、観光客の多様なニーズに対応しているといえます。

観光業の持続可能性を高めるためには、オールシーズンで観光客の多様なニーズに対応可能な観光リソースが観光地に含まれていることが重要であり、そのような地域づくりを自治体と地域が一体となって推進することで、持続的な観光業の促進に伴う起業機会や雇用創出が実現できることでしょう。

観光資源の見える化

地元観光地への集客の効果を高めるためには、ICT技術を活用することが重要です。ありとあらゆるものがインターネットに接続されるIoT時代にあっては、ビラや広告よりもICT技術を活用する方がはるかに費用対効果が高いといえます。

地域に所在している観光事業者や飲食店などのサービス業などすべての事業者にホームページを普及させ、デジタル空間に情報発信することによって、不特定多数に認知されるようになり、新規観光客の誘致につながっていくはずです。

また、Twitterやインスタグラムに代表されるSNSやYoutubeなどの動画配信サービスを活用することにより、口コミなど体験に基づく生きた情報発信が可能となり、それらの反響を見ることによってマーケティング効果を得ることができます。

スマートホンなどの普及によって人間中心の情報社会が確立しており、どこにいてもあらゆる情報を瞬時にアクセスすることができるようになりました。このような時代の変化によって、人々は行先の情報を前もって調べてから行動するようになりました。

そのような人々の行動変容に対応するために、ICT技術を活用して観光資源の見える化することは、持続可能な観光業を促進していく上で欠かすことのできない地域全体の取り組みということができます。

宿泊施設の利用率改善

バブルの時代にたくさんの宿泊施設が建設されましたが、その崩壊とともに日本経済は暗黒の20年に突入し、経済不振の影響による国内観光事業の低迷に併せるように宿泊施設の廃業・倒産も増えていきました。とある地域では、廃業し朽ち果てた宿泊施設が廃墟となって今も残されており、リユースすらできず問題となっています。

COVID-19により、インバウンドの宿泊者が激減したことにより、老舗旅館の廃業などが話題になりました。都心部の宿泊施設はビジネス利用のシェアがありますが、地方の宿泊施設では、ほぼ観光客の宿泊利用に依存しているため経営者にとっては看過できない重大な問題です。

観光業の一端を担う宿泊施設の持続可能性を確保するためには、他の観光リソースとのアライアンスを強化して、地域全体でおもてなしを可能とすることが重要です。オールシーズンで旅行のセットプランを提供してリピート率を向上させることが宿泊施設の利用率の改善には必要です。

また、リモートワークの普及によって場所にとらわれない働き方が主流となりつつあるため、今後は観光客だけではなく、リモートワーカーを宿泊地に招致することによって、平日の空き室を少なくすることができれば、宿泊利用率のさらなる改善が期待でき、レジリエントで持続可能な観光業の促進が達成できるのではないでしょうか。

編集後記

SDGsの目標8「働きがいも 経済成長も」は、現代に生きる私たちにとって身近な課題解決の方法を提示しています。この回で取り上げた2つのターゲットのほかにも、正社員と派遣社員の賃金格差(同一労働、同一賃金)の問題や、就労、就学及び職業訓練を受けていない若者を減らすこと、労働者の権利の保護と安全・安心な労働環境に関する取り組みなど、現在の日本が早急に取り組まなければならない諸問題は依然として山積みの状態であり、2030年のSDGs達成のためには、これら諸問題をすべて解決していかなければなりません。

日本は先進国の中でも、労働者一人当たりの生産性が低いといわれています。その生産性の低さを長時間労度で補っているわけですが、諸外国から見れば、労働時間と賃金が割に合っていないため、そのような理由から日本企業への就職を躊躇する外国人も少なくはありません。

私たちは、今の日本の雇用事情に決して満足してはいけないと考えています。ここから先の未来では、企業よりも個が活躍する時代になるといわれています。そんな未来を生き抜くためにも、企業はタニタのような大胆な雇用改革を実行して、社員や従業員が個として活躍できるような雇用環境と自ら変化する機会を提供していかなければなりません。

また、社員や従業員は企業の終身雇用がもはや成り立たない現実を真摯に受け止め、個として独立し働くことを恐れずに、働きがいとライフ・ワーク・バランスの取れた自由で人間らしい生活様式を求めて自身のマインドを高めて進化してなければならないでしょう。

SDGsは、未来への大航海において、あなたという船が向かうべき方向を指示す羅針盤(コンパス)のような役割を果たしてくれます。これをお読みになられた読者ご自身の働き方を見つめ直すきっかけになれば幸いです。

さあ、私たちと一緒にSDGsの達成を目指していきましょう。

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