SDGs 目標15 陸の豊かさも守ろう

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SDGs目標15の趣旨は、「陸域生体系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」です。この目標は、全部で12個のターゲットで構成されています。

林野庁によると、日本の国土面積に対する森林面積の割合(森林率)は67%で、実に国土の2/3が森林です。現在における日本の森林は、戦後復興による拡大造林政策によって植林された人工林(針葉樹林)が多くを占めており、昭和30年(1955年)から約20年間の高度経済成長期に伴う住宅需要の高まりなどを受けて、この時期の林業は大変振興されていました。

しかしながら、海外からの木材輸入量の増加に伴い、急激に国産材の需要が低迷し、1980年に14.6万人いた林業従事者数も2015年では4.5万人まで減少してしまいました。さらには、林業従事者の高齢化率も高くなり、後継者となる若年就業者の確保も難しい状況におかれています。近年では、林野庁による「緑の雇用」制度により、林業未経験者にも林業に就く機会を作り、林業においてキャリアアップを支援する事業が推進されています。この制度により、林業従事者の減少に歯止めをかけ、林業の再発展と技術の継承が期待されています。

林業従事者の減少により、整備の行き渡らなくなった森林(施業放棄森林)が増加しています。これは、森林蓄積率(森林内に存在する木の体積率)を見ると理解することができます。林野庁の森林面積蓄積率の推移に関する資料によると、長年にわたって森林面積に大きな変化がないものの、森林蓄積率は年々増加していることが見て取れます。これは森林の樹木本数が増加していることを意味しており、特に民有林の森林蓄積率が高いということは、民間林業の衰退にともなって、間伐などによる伐採量が低下していることを示唆しています。

人工林が放置されるといろいろな問題が起こります。人工林は植林、下草狩り、枝打ちや間伐などの作業を行いますが、これは単に良質の木材を生産するだけではなく、健康な樹木を山にしっかりと根張りさせることで、大雨などによる地滑りなどの土砂災害を防止する効果もあります。さらには、下草狩りや枝打ちを行うことにより、森林内の風通しがよくなり、日光が適度に地表に届くことによって、陸域の生態系の保護にも良い影響を及ぼします。

日本や世界中でマツタケの生育量が減少しており、IUCN(国際自然保護連合)は2020年にマツタケを絶滅危惧種に指定しました。このマツタケの減少は、整備が行き渡らなくなり荒廃した森林が増加したことが関係しているといわれています。

以上のように日本の林業は、SDGsの目標15が掲げる「持続可能な森林の経営」に対しては改善の余地があり、このままでは陸域生態系にも悪影響を及ぼす危険性をはらんでいることが理解できました。これを踏まえ、私たちが特に注目している4つのターゲットについて、掘り下げてみたいと思います。

15.2 森林の持続可能な経営を実施し、森林の減少を阻止・回復と植林を増やす

2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

林業の業界における樹木伐採の方式は、大きく「短期皆伐方式」と「長期非皆伐方式」の2つに分類されるそうです。短期皆伐採方式とは読んで字のとおり、ある一定の区域に植生している樹木を一度にすべて伐採してしまう方式のことです。この方法では、一度に大量の材木を短期間のうちに収益に変えることができますが、植樹してから次の材木が得られるようになるためには、少なくとも50年から70年以上かかるとされています。

また、このような地域では、山肌がむき出しになっているため、麓では大雨などによる土砂災害に見舞われる危険性が高くなります。さらには、森林の生態系への悪影響や環境負荷が非常に大きいといわれています。

一方、長期非皆伐方式は、建材利用に最適な大きさの樹木を部分的に伐採(間伐)する方式のため、長期間にわたって森林から一定量の木材を安定的に得ることが可能となります。この方式では、常に「植樹」「下草狩り」「枝打ち」「間伐」の作業がサイクルしており、長期にわたって手入れの行き届いた健全な森林として管理され続けるため、森林管理にかかわるコストも短期皆伐方式に比べて1/5程度まで軽減でき、森林の生態系への影響や環境負荷も小さいといわれています。

しかしながら、日本の人工林は戦後の拡大造林政策によって造成された杉林がほとんどであり、建材として利用するには樹齢が若いものが多く、現時点では、材木出荷で得られる収益よりも森林を維持するコストの方が多くかかっている状況です。これが長期非皆伐方式に移行できない理由なのかもしれません。

森林の持続可能な経営を推進するためには、今日における林業事業者の収益性を改善させ、長期非皆伐方式への移行を促進するとともに、有効な取り組みに対しては、助成金やインセンティブを与えるなど制度設計が必要と考えられます。そのほかにも、木材や機材運搬に必要な林道の整備を国や地方自治体が強力に推進することも、林業従事者の収益改善につながることでしょう。

また、今後の林業においては自動化による従事者不足や高齢化への対策についても大いに議論されるべきです。例えば、下草狩りや枝払い作業の全自動化のためのRPA開発や自動運転技術人工知能や5Gを活用した大型林業用重機の遠隔操縦など、林業事業者の収益性改善と安全確保を獲得するための技術として研究開発を推進していく必要があるのではないでしょうか。

15.4 生物多様性を含む山地生態系を保全する

2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生体系の保全を確実に行う。

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

生物多様性とは、地球上に幅広く性質の異なる生物が存在していることを意味しています。そして、それらの生物たちのすべてが直接的かつ間接的につながり合い支えあうことによって、世代を超えて生命をつないできたのです。

生物多様性条約によると、「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」の3つのレベルで多様性が定義されています。これら3つの多様性が複雑に絡み合って自然が形成され、多様な生物が発生し、それぞれの役割を果たすことによって、地球上のあらゆる生物が世代を超えて生命をつなぐことができました。食物連鎖を見ればわかるとおり、地球上の生物は、たった一種類だけでは生存していくことはできません。また、連鎖の中のどれか一つの生物が欠けても、生態系が成立しなくなってしまうのです。

生物多様性を保全することは、私たち人間を含む地球上すべての生物が、直接的または間接的な関係性を良好な状態に保つことと理解できます。そして、40億年もの歳月をかけて進化し共存してきた生態系が、人間の身勝手な開発によって絶滅危機にさらされていることを深刻に受け止め、改めて種の絶滅がもたらす生態系破壊の危険性をしっかりと理解して行動しなければなりません。

今後の山地開発においては、その土地に根付いている生態系の調査や開発の透明化を義務付け、生態系と共存可能な開発を行うか、または生態系保全のための措置を徹底させる必要があるでしょう。そのためには、建設業界内においても、生態系の学術調査を行うことができる人材が必要となることでしょう。また、生態系の学術調査に関する新しいビジネスが創出されていくのかもしれません。

15.5 絶滅危惧種の保護と絶滅防止のための対策を講じる

自然生息地の劣化を抑止し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また、絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる

http://www.env.go.jp/policy/sdgs/guides/SDGsguide-siryo_ver2.pdf

環境省の調べによると、日本には確認されているだけで9万種以上もの多様な生物が生息しており、その中で3,155種が環境省レッドリストにおいて「絶滅の恐れのある野生生物(絶滅危惧種)」に指定されています。

環境省が提供するホームページ「いきものログ RDB図鑑」には、日本の絶滅危惧種が写真付きで紹介されています。そこには、主な生息域と主な減少要因が記されており、森林や河川・湖沼の開発の影響によって絶滅の危機にさらされている動植物が多いことが見て取れます。

絶滅危惧種については、「絶滅のおそれのある野生動物の種の保存法に関する法律(平成四年六月五日法律第七十五号)」によって保護されているほか、大学等研究機関、動物園や水族館などによって種の保存活動が推進されているところです。

絶滅危惧種を生む要因は、実は開発による影響だけではありません。近年では、外来種が在来種の生息域に人為的持ち込まれて競合させられたことによって、在来種の個体数が急激に減少し、絶滅の危機に追い込まれていることが問題視されています。

例えば、外来種のブルーギルやブラックバスが、在来種のモツゴやメダカを捕食して個体数が減少していることはよく知られた話です。これは、人間によって放流された外来種が河川や湖沼などに定着し優占種となることにより、本来の生態系のバランスが崩れてしまうからなのです。

絶滅危惧種は法律で保護されているため、私たちの一般の民間人レベルでやれることはほとんどありません。しかしながら、在来種減少の原因となる外来種の個体数を減らすことについては、私たちのレベルでもやれることがたくさんあると思います。

  1. 外来種を持ち込まない、持ち込ませないための管理
  2. 外来種の個体を減らす活動
  3. 外来種を有効活用する方法の確立

外来種の取り扱いについては、現行法律等の制度設計を見直して罰則規定の強化に基づく行政管理を徹底することが必要でしょう。また、外来種の駆除作業と生体系調査を定期的に行い、調査結果をデータ化して未来へ残す活動も必要なことです。そのほか、在来種の駆除作業で捕獲されたものを食品加工して消費可能とする開発も、環境負荷を軽減するために有効なアクションとなりえます。

これら3つのアクションは、生態系の回復と絶滅防止に対する実効性の高い対策といえるのではないでしょうか。

15.b 持続可能な森林経営のための資金の調達と資源を動員する

保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブの付与のための相当量の資源を動員する。

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日本には「林業経営基盤の強化等の促進のための資金の融通等に関する暫定措置法(昭和五十四年法律第五十一号)」という法律があり、令和元年法律第三十一号として改正法が発布されています。この法律の目的は、林業経営基盤強化、木材生産及び流通の合理化を図るために必要な資金の融通等に関する措置を講じることによって、林業並びに木材製造業及び卸売業の健全な発展に資することです。

この法律の内容についてザックリと説明すると、ある一定条件を満たす林業等従事者に対して、株式会社日本政策金融公庫からの貸付金の償還期間や据置期間の融通を利かせ資金繰りを助けることができる貸付制度です。

森林から木材の伐採が可能となるまでには、おおよそ50年から70年以上かかるといわれています。その間は、植林、下草狩り、枝払いや間伐などの作業コスト、機材費や燃料コストの出費がほとんどであり、まとまった収益を得ることができるまでの長期間にわたって資金を供給して林業経営を支援する貸付制度が今日の森林経営の命綱となっています。

このほかにも「木材産業等高度化推進資金」による貸付制度があり、こちらは都道府県知事の認定を受けることによって、民間の金融機関から融資を受けることができる制度です。

今日における日本の林業の主体は、戦後の「拡大造林政策」によって造成された人工林(針葉樹林)によるものであり、戦後70年以上経過したため、ようやく森林からまとまった収益が得られる時期になったと考えることができます。

しかしながら、地主や林業従事者の高齢化と後継者不足によって施業放棄森林化している山林が増加している状況であり、高い輸送コスト、材木仲卸の仕組みや海外からの輸入材による価格低下などの林業特有の諸問題により、思ったように収益を得にくい構造であるのも事実なのです。

林業は、個人事業主による経営が多いようですが、ある程度の規模の資金調達を可能とするためには、法人化して上場することも必要なことではないでしょうか。日本の林業は、今まさに「短期皆伐方式」から「長期非皆伐方式」への転換点に立たされています。今後の日本の林業は、長期非皆伐方式への転換をを軸とした事業展開を行い、世界中のESG投資家からの資金調達を可能とすることによって、持続可能な森林経営が実現できるようになるでしょう。

編集後記

私たち人間の都合で進められてきた開発や身勝手な行動が、今も生物多様性を破壊し続けています。私たち人間は、地球から見れば生物多様性の一部でしかありません。このままでは、私たち人間は、いづれ自らが犯した環境破壊のツケを払うことになるでしょう。人間の絶滅もあり得るのかもしれません。

今後の日本は、森林経営の中で生物多様性の保存と生態系との共存の両立が可能な開発手法を獲得し実践していかなければなりません。

世界中の投資家たちのマインドは、目指すべき未来への投資に急激に変化しています。これから先の未来では、ESG経営によるSDGs達成への貢献度が常に評価されることになります。

そのような未来において、SDGsを無視した企業は社会から淘汰され消えゆく運命にあるのかもしれません。その反対に、SDGsの目標達成に貢献している企業には、未来に向かって大きく発展するチャンスが与えられることになるでしょう。

既存社会は、ESG投資によって近い将来再構築されることになるでしょう。それもまた、SDGsの目標達成のために必要なことなのかもしれません。

陸の豊かさを守るため、私たちと一緒にできることから実践してSDGsの達成を目指していきましょう。

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